寄り道東海道

岩屋観音

二川の西に岩屋緑地があります。二川宿を出た旧東海道は火打坂の交差点を北上し、この緑地を東から回り込んで吉田宿(豊橋)に向かいますが、現在の東海道である国道一号線はこの緑地の西を通っています。また緑地のすぐ南には東海道新幹線と東海道本線も通っているように、交通の要衝にあるのが岩屋緑地です。

 

岩屋緑地には大蔵山と岩屋山という山があります。山といっても大蔵山の標高は一〇六メートル、岩屋山は七八メートルほどですが、ここは南アルプスに続く弓張山系の南端で、この二つの山はその大きな山系から切り離され、市街地にぽつんと二つ岩が置かれたような、そんな山です。

古東海道はこの二つの山の間を北に上がっていったようで、緑地内にこのような表示が立っています。

さてこの岩屋山山麓に、天平二年(七三〇)行基が諸国巡礼の際に立ち寄り、千手観音像を刻んで岩窟に安置したという由来を持つ観音堂があります。

観音堂は天正一三年(一五八五)に起きた山火事で焼失、元文三年(一七三八)に再建されました。その後幾たびか修復の手が入り、現在のお堂は文政八年(一八二五)に再建されたものです。

現在このお堂は、二川本陣の北西およそ一五〇メートルのところにある大岩寺の境外仏堂となっていますが、大岩寺はもとは観音堂と同じ岩屋山の山麓にあった塔頭の一つでした。いつどのような理由によるのかわかりませんが、大岩寺だけが残ったことから、この寺が観音堂を管理することになりましたが、江戸時代になって二川宿が整備されるにあたり、山麓の大岩町が東に移転したのに伴い、大岩寺も宿場内の現在地に移りました。

 

岩屋山にはあちらこちらでチャートの岩石が露出し、観音堂周辺の岩場にはたくさんの石仏が安置されています。緑地として整備された中にあって、岩場周辺だけ空気が異なるように感じられます。

 

岩屋山があるこの地は大岩町、緑地の東側の坂は火打坂といいますが、まさにここの地質に由来する地名です。

 

  

ごつごつした岩山を上っていくこと十数分、山頂に到着すると、岩場に右上のような聖観音像が立っています。この観音像は新幹線からも見えますので、思い当たる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

二川の次の宿場・吉田を流れる豊川には鎌倉時代から橋が架かっていましたが、事あるごとに掛け替えの必要が生じました。中でも江戸時代の宝暦四年(一七五四)の架橋工事は難工事だったと伝わります。その工事を請け負った江戸下谷の大工が岩屋観音に参籠、観音様によるお告げに従い工事を進めた結果無事橋を架けることができたことから、そのお礼にと下谷の講によって明和二年(一七六五)岩屋山山上に聖観音像が建立されました。大正十二年(一九二三)には、明治の御雇外国人だったドイツ人医師ベルツ博士の妻ハナ(二川の二つ西の宿場御油宿の出身)から鉄柱と鎖が寄進されますが、観音像とともに太平洋戦争に供出され、現在の観音像は昭和二十五年の再建です。

 

山上からは二川の町が一望できます。東海道が岩屋山の麓を通っていた時代、旅人は岩屋観音や岩窟に置かれたたくさんの石仏に手を合わせたでしょう。それは旧東海道が出来てからも変わることはなかったと思いますが、江戸の中期以降は山上に聖観音像が加わったことで、旅人はより一層見守られているという安心感を抱いたのではないでしょうか。

 

 

 

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