祭祀風景

千本ゑんま堂と千本釈迦堂にて六道参り

京都ではお盆に先立ち、六つの冥界にいる先祖の霊(お精霊さん)をお迎えし供養する六道参りが行われています。三年前にその風習を知り、東山の六道珍皇寺で初めて体験しました。六道珍皇寺付近は平安京の葬送の地である鳥辺野への入り口、あの世とこの世の境の六道の辻と考えられていました。お盆にこの世に帰ってくるお精霊さんは、かならずそこを通ることから、私たちがお迎えに参上する、というのが六道参りです。精霊迎えとも呼ばれます。

それまでお盆というと家で迎え火を焚いて先祖の霊をお迎えするものだと思っていたので、京都のこの風習は強く印象に残りました。平安時代に仏教が浸透し、死後の世界としての冥界が意識されるようになり、都の葬送の地が冥界への入り口と考えられたことがや平安時代の公卿小野篁が冥府通いをしていたという伝説が広まったことが六道参りという風習を生んだのでしょう。

都の葬送の地は六道珍皇寺付近にあった東の鳥辺野の他、西には化野あだしの、北には蓮台野れんだいのがありました。

今年は蓮台野へ足を延ばし、千本ゑんま堂と千本釈迦堂でお参りしてきました。

 

千本ゑんま堂は通称で、正式には引接寺いんじょうじという真言宗のお寺です。引接とは、仏が衆生を救い極楽に導くことを意味するそうです。千本ゑんま堂は名前の通り千本通り沿いにありますが、千本通りというのは平安京の朱雀大路に相当する南北の通りで、北は船岡山に通じています。かつて船岡山の西には葬送の地・蓮台野が拡がり、その入り口に鎮座する引接寺から蓮台野に亡骸を送る際多くの卒塔婆が建てられたことから千本通りと呼ばれるようになったといいます。

引接寺は、現世と冥界を行き来した小野篁が自ら閻魔大王を刻んで祠を建ててお祀りしたことに始まると伝わります。その後寛仁元年(一〇一七)に恵心僧都源信の弟弟子にあたる定覚上人により、「諸人化導引接仏道」の道場とすべく仏教寺院として開山されたそうです。御本尊は閻魔大王。最初の御本尊は応仁の乱で焼失、現在お祀りされているのは長享二年(一四八八)に定勢によって刻まれたものです。

 

お盆の時期、ここでは閻魔大王の許しを得て先祖の霊が各家庭に戻るとされています。お精霊の迎え方は六道珍皇寺とほぼ同じで、まず水塔婆に○○家と名前を書いていただき、それをご本堂前の線香の煙で清め、御本尊に礼拝した後、たくさんの石仏が置かれた池に水塔婆を流し、お精霊の依り代となる高野槙を求め、迎え鐘をつきます。

 

ちなみに今日十四日の夜には、千本六斎会による六斎念仏が奉納されます。六斎念仏というのは、月のうち六日ある斎日に市中で念仏を唱えたことに由来し、その後は八月のお盆時期の行事となって伝わっています。

 

 

次に、千本ゑんま堂の南三百メートルほどのところにある千本釈迦堂へ。

千本釈迦堂は通称で、正式には大報恩寺といいます。鎌倉時代の安貞元年(一二二七)に義空上人によって開かれた真言宗のお寺で、本堂は奇跡的に応仁の乱の戦火を免れ創建当時のものが残っています。

釈迦堂という名の通り、御本尊は快慶の弟子行快による釈迦如来坐像(国の重要文化財)で通常は非公開ですが、お盆の時期だけご開帳されます。

下が国宝の本堂。

 

千本釈迦堂での六道参りは、現在霊宝殿に安置されている六観音菩薩像(重要文化財)の六道信仰によって行われるものです。

仏教では輪廻転生する六つの道、つまり地獄道、餓鬼道、畜生道、阿修羅道、人道、天道があり、それぞれに対応した聖観音、千手観音、馬頭観音、十一面観音、准胝観音、如意輪観音の導きで六道世界から救われるとされました。

千本釈迦堂での六道参りは、まず本堂前で塔婆に戒名を書いていただき、本堂入り口付近にある御本尊に繋がる紐を引き、鐘を鳴らします。これが迎え鐘に当たります。その後塔婆を本堂に収め供養します。

日が暮れると万灯に燈がともり、ご精霊迎えに合った幻想的でどこか儚げな雰囲気になることでしょう。

 

御本尊の釈迦如来坐像はご開帳されているとはいえ距離がありますが、霊宝殿に安置されている諸仏は間近に拝観でき、どれも見事な仏像でした。四年前に東京や京都、九州の国立博物館で展覧会が行われましたので、よろしければこちらをご覧ください。

 

 

 

 

 

 

 

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