まちなみ風景

丹波篠山 河原町妻入商家群

早いもので今年も残すところ半月になりました。買い物に行くと、クリスマス関連のものとお正月用品が同居しているのが目に付きますが、あと十日もすればお正月に向けた品々の独擅場になります。お正月に欠かせない黒豆は、十一月中旬から収穫されているそうです。枝豆として食べる分はそれに先立ち十月に収穫されますが、煮豆に用いる分は一月ほど収穫時期が遅くなるのです。今年は暑い日が続いたので、いつもより少し遅れているらしく、丹波篠山でもいまが収穫の最盛期です。収穫した黒豆は、自然乾燥させ丸くなったところで出荷されます。今年丹波篠山で採れた黒豆がお店に並ぶ日も近そうです。

その丹波篠山ですが、以前訪れた際時間の都合で行くことのできなかった河原町の商家群を今回訪ねてみました。

山陰道の要衝に位置する丹波篠山は、周囲を山に囲まれた盆地で、篠山盆地中央の小高くなったところに西国の諸大名の押さえとして丹波篠山城が築かれました。縄張り奉行は藤堂高虎、徳川家康による天下普請で慶長十四年(一六〇九)に完成しています。築城に伴い城下町も整備されていきました。今回訪ねた河原町は、篠山川の流れを南に移し造成されたもので、中世の山城だった丹波八上城下(丹波篠山城の南東約五キロ)から観音寺と真福寺という二つのお寺を最初に移した上で、町屋が建築されていったそうです。

 

 

 

河原町は篠山川に並行する河原町通りという街道を中心に形成されています。街道は東西およそ六百メートル。道の両側に妻入の建物が続いています。電線が地中に埋め込まれているので、空がすっきりと広く見えます。

街道沿いの町屋の数は、正徳元年(一七一一)当時とほぼ変わらず一五〇軒ほど。写真を見ておわかりのように妻入の建物が大半です。連続する妻入の町屋を見ていると、以前伊勢街道を歩いたときのことを思い出します。伊勢方面には勢多川沿いの伊勢河崎をはじめ各地に妻入の建物があります。その理由を伊勢では伊勢神宮が平入のため、同じにしては畏れ多いからとしていますが、根拠はないようです。北国街道の出雲崎宿(新潟県)にも妻入の建物が多く残り、独特の景観を生んでいます。こちらでは江戸時代間口の狭い方が税金が安かったことを理由に挙げており、丹波篠山の河原町もその理由が当てはまりそうですが、確かなことはわかりません。それはともかく、妻入の町屋が続く景観を前にすると不思議と心が浮き立ちます。色彩に溢れたヨーロッパの三角屋根の町並と比べ、日本の切妻は落ち着いたモノトーンの世界ですが、モノクロ写真が被写体の本質を際立たせるのに似て、それによってかえって動きが感じられます。

 

 

 

上は街道の西端にある西坂家住宅、綿屋という屋号で綿花栽培や醤油屋を営んでいました。江戸時代の建築で当時の様子をよく残しています。

 

こちらは江戸時代後期の高田家住宅。中二階に出格子窓や虫籠窓が設けられた典型的な商家の造りです。

街道沿いの町屋は醤油屋、畳屋、骨董屋、肉屋、雑貨屋など今も商店として営業しているところもありますし、宿泊施設として使われているところもあります。

 

 

 

 

 

武家屋敷群と共に国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている河原町。この日は観光客より地元の人の姿が目に留まりました。丹波篠山の日常の中に、いくつか歴史的な空間が残され、静かにその歴史を伝えているという印象で、こうした街道風景に出会えると嬉しくなります。

 

 

 

 

 

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