寄り道東海道

新居関所

江戸時代全国に五十以上置かれた関所の中で、当時の建物が残っているのはここ新居のみ。国の史跡になっています。

建物は間口十一間、東海道に並行して建っています。この建物は築百六十年近くになりますが、新居の関所はもともとこの場所にあったのではなく、現在地から南東に一、六キロほどのところに置かれていました。宿場町も同様で、最初に関所と宿場があった場所を大元屋敷跡といい、現在はこのような公園になっています。

 

 

 

ところが、元禄年間の暴風雨と宝永年間の大地震で、新居の関所は二度も移転を余儀なくされます。現在地に落ち着いたのは、地震翌年の宝永四年(一七〇七)でした。

早速関所跡に入ってみましょう。

まず眼につくのは、東には再現された船着き場跡です。

当時はここまで湖が来ていました。船を下りた旅人が監視をくぐり抜けて先に進むことは不可能な構造だったことがわかります。

  

面番所と呼ばれる建物に入ると、紋付き袴姿の役人が横一列に座り、こちらを睨んでいます。もちろんこれは当時の役人の姿を再現した人形ですが、関所破りを捕まえるための刺股や突棒の現物は現実味があります。こんなもので突かれたらひとたまりもありませんし、捕まったら最後、極刑が待っていました。

新居の関所は、とくに女性に厳しいことで有名でした。女性専用取り調べ室の女改長屋が面番所の北西隅にあります。改め女が通行人の全身を詳しく調べたというから、精神的な苦痛はいかばかりかと思いやられます。

江戸時代の歌人井上通女も、手形の不備で関所を通してもらえなかった心境を日記『東海紀行』に記しています。

荒井にやどかりて、難波にて賜りし御印、関所に奉りしに、わきあけたる少女と書き わくべき事を、えしらで、たゞ女とのみ書きて奉り、扨御印の言ことばにも、女とのみ 有りければ、ゆるし給はで、空しくもとのやどりに帰りぬ 。いかゞ悲しくつらくて、 いかでさる事しらざりけんと 、我身さへ恨めしくて、

たびごろもあら井の關をこえかねて袖による浪身をうらみつゝ

このとき通女が身につけていた服装は、何歳であろうと少女と書かなければならないものだったのに、手形には単に女とあったため、記載内容と実物とは違うということで関所を通してもらえなかったのです。

井上通女は万治三年(一六六〇)丸亀藩士の長女として生まれ、幼少の頃から両親による英才教育を受け、十六、七歳で女性の理想を説いた『処女賦』や『深閨記』を執筆する才女でした。その名声が藩主京極高豊の母の元に届き、通女が二十二歳の天和二年(一六八二)江戸に召され父と共に江戸に下ることになりました。

この話はその途中の出来事で、何としても江戸に行かなければならない通女としては気が気ではなかったでしょう。急遽使者を大坂に遣わし数日後正しい手形を手に入れ、無事関所を通ることができたようで、通女はその喜びの心境を次のように書き残しています。

此たびはたがふ所なければ、とく〱と許さる。いとうれしくて、此程思ひ暮しぬる、 心ひらけたる心地して、いそぎ舟にのりぬ。

ようやく関所を通ることができた喜びで今切れ渡船の恐怖もかき消され、弾むような気持ちで浜松に入った通女の顔が思い浮かびます。

ちなみに新居に関所が置かれたのは慶長五年(一六〇〇)。当初は江戸幕府から直接派遣された役人が関所業務を担っていましたが、元禄十五年(一七〇二)にその業務は三河国の吉田藩に移されたといいますから、現在地に遷ったときは吉田藩の管轄だったことになります。

関所機能をより強化するためだったようですが、それによって新居と吉田の繋がりが強まりました。

舞阪と新居の間の婚姻はありませんでしたが、新居と吉田の間ではごく普通に行われていたという話も、新居が東でなく西を向いていたためでしょう。

吉田というのは現在の豊橋。白須賀宿までは遠江国ですが、感覚として新居は三河に近かったのかもしれません。

 

 

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