心に留まった風景

醍醐寺の桜

今年は例年になく桜の開花が早く、桜前線はすでに東北に至っています。梅の記憶が新しいうちに桜が満開になってしまったので、桜を待ちわびる気持ちが今年は少し薄かったように思いますが、満開の桜を前にしたらそうしたことはもうどうでもよくなってしまい、目の中、頭の中は桜に染まってしまいます。梅とて満開になれば見事なのに、梅に狂うということはあまり聞きません。でも桜を前にすると、一本心の箍が外れてしまいます。花の付き方が華やかで空を埋めつくすほどに咲いたかと思うと一吹きの風でぱっと散ってしまうというのが、日本人の心情に合うとはよく言われることですが、気温が上がり戸外で過ごすのが心地よい時期に満開になることも関係しているかもしれません。何にせよ、桜には心躍らされます。

先週末関西でも気温が二十度近くになりました。ぐずぐずしていると桜が散ってしまいそうでしたので、朝一番で京都の醍醐寺に出かけたところ、境内に植えられているおよそ千本の桜が見頃を迎えていました。醍醐寺については書き出すときりがありませんのでそれは別の機会に譲り、今回はゆるり花見に興じることにいたします。

慶長三年三月十五日(一五九八年四月二十日)秀吉は醍醐寺三宝院の山麓で盛大な花見の宴を催しました。世に知られる「醍醐の花見」です。その際秀吉は各地から桜の名木を七百本あまり取り寄せ、花見のための御殿まで建てたと言われています。そして花見の宴では、桜を愛でながら各自歌を作り、それを短冊に記して桜につり下げたとか。その時の短冊は「醍醐花見短冊帖」としていまも三宝院の寺宝になっています。

ちなみに下は秀吉の歌です。深雪山とは桜が満開の醍醐の山のこと。まるで雪が深く積もったように桜で覆われた山の姿が目に浮かぶようです。深雪山は醍醐寺の山号になっています。

あらためてなをかえて見む深雪山 うずもる花もあらわれりけり 

 

冒頭の写真と上の二枚はいずれも三宝院の大玄関前に咲く枝垂れ桜です。推定樹齢は百五十年。秀吉の醍醐の花見のスケールの大きさに通じる豪華な枝垂れは、桜に埋めつくされた山のようにも見えます。

三宝院は醍醐寺の塔頭の一つで、ここに「醍醐の花見」の際に建てられた茶屋の一つ「純浄観」が移築されています。表書院、純浄観、弥勒堂はそれぞれ渡り廊下で繋がれ、参拝者はそれぞれ趣きの異なる建物から庭を様々な角度、高さから鑑賞することができます。

 

庭園は秀吉が「醍醐の花見」に際し自ら設計し、賢庭によって造られた池和泉回遊式の名園。秀吉は各地から七百あまりの名石をこの庭に運び込んだそうで、石だけでも見応えがあります。中でも有名なのは、庭園中程の奥に据えられている藤戸石と呼ばれる石です。(写真下中央に見える四角い縦長の石)この石は元々岡山県の藤戸町にあったもので、足利義満が鹿苑寺(金閣)に取り寄せ、その後、細川管領家、二条城、聚楽第と移され、醍醐寺三宝院に収まった経緯から、天下人が所有する石とされています。

 

 

醍醐寺で秀吉が手を入れたのは三宝院だけではありません。天暦五年(九五一)創建のこちらの五重塔(国宝)もそうで、大地震で傾いていたものを秀吉は「醍醐の花見」に合わせ修復しました。

 

こちらは金堂から見た五重塔。

 

下が金堂(国宝)。紀州満願寺の本堂を移築したものです。

 

 

堂々たる仁王門も桜に包まれ優しく感じられます。総門から仁王門までの桜の馬場と呼ばれる参道では、例年豊太閤花見行列が行われるのですが、コロナ禍においては中止です。来年は開催できるでしょうか。

 

 

醍醐寺は枝垂れが多く、青空から桜が降り注ぐように咲いています。とりわけ霊宝館の枝垂れは見応えがあります。下は樹齢百八十年の大木。あいにく盛りは過ぎていましたが、その姿は堂々たるものです。

 

こちらは枝垂れではなく染井吉野ですが、これも推定樹齢百年だそうで、染井吉野では京都最古とのこと。

 

こちらも霊宝館の枝垂れ桜。繊細さと華やかさを兼ね備えた姿に目を奪われました。

 

 

久しぶりに訪れた醍醐寺、桜の季節は初めてで、桜に埋めつくされた境内で時の経つのを忘れました。

 

 

 

 

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