祭祀風景

みたらし祭

 

先週土曜日の二十七日は土用の丑の日でした。鰻をいただくのが土用の丑の日の恒例ですが、今年は京都・下鴨神社(賀茂御祖神社)のみたらし祭に参加しました。

下鴨神社境内からただすの森を流れる一筋の小川。御手洗みたらし川というその川は、糺の森で奈良の小川、瀬見の小川と名を変えて下り、最後鴨川に注ぎます。その水源となっているのが御手洗池で、土用の丑の日前後に行われるみたらし祭は、普段は聖域として守られている池に足を浸して罪・穢れを払い、蝋燭を奉納して無病息災を祈るというものです。

元は平安貴族が季節の変わり目に禊ぎをして身を清める神事でしたが、次第に庶民の間に広まり、現在のような形になりました。

御手洗池は境内の東にあります。本殿にお詣りをしてから、御手洗池へ向かいます。

 

水は大人の膝ぐらいまでありますので、濡れないように裾をまくり上げてから水の中へ。水はひんやりと冷たく、暑さを忘れます。

 

朱色の太鼓橋をくぐると、そこが御手洗池です。

 

ちょうど一年前の夏、命の瀬戸際まで追い詰められた父の傍らで、ただ無心に快復を願い父と時間を共にしました。その間予期せぬ様々なことが起こり私たちは翻弄されましたが、渦中にあった父本人は自然の流れに身を任せていたのか、荒れ狂う波にのまれることなく、静かに凪ぎを待っているように見えました。ぎらついた空がすっと空高く抜け出したころ、父は人生最後の航海に出ました。

今年の夏の到来は、身近に起きた一年前の出来事を脳裏に呼び戻しました。少し熟成の進んだ記憶。そこにあるのは、感謝の気持ちと同時にいくつかの事に対する恨みや後悔です。それは自分の心の中に封印しておくべきものだと思っていても、夏の強い陽射しがその封を溶かしてしまうのでしょうか。抑えようとしても抑えきれない心の黒い泉が、ふつふつと湧いてきます。けれども恨みや後悔といったマイナスの感情を父が望むはずはありません。

 

冒頭の写真でみたらし池の奥に見えるお社は、この池の上に鎮座する井上社(御手洗社)で、御祭神・瀬織津姫命は払戸四神の一柱、罪・穢れを水に流す祓い清めの女神さまです。御手洗池に足を浸け、罪・穢れをお祓いするというのは、この女神さまの神徳によりますが、私の心に湧くこの感情もある意味心の穢れですから、ここできれいに水に流すことができたらいいのですが…。

 

 

わずか十数分の禊ぎでしたが、水からあがった体はすっきりと軽くなったようで、新しい夏を迎えられるような気がしています。

最後は御神水をいただき、体の中からきれいに。

 

ちなみにこの御手洗池の水は、土用の丑の日が近くなると湧き出してくることから、京の七不思議の一つとされています。(残念ながら今は湧き水でありません)その水がぽこっぽこっと湧き出るときの丸い形を模し、みたらし団子が生まれました。みたらし祭の間は、参道に加茂みたらし茶屋さんが出店を出しており、長い行列ができていました。

 

土用の丑の日以降、暑さのレベルが一段階上がったようで、今日の関西は三十五度近い猛暑ですが、御手洗池に足を浸けたときのひんやりした感覚をときどき思い出して、厳しい夏を乗り切りたいものです。

 

 

 

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