拙著『東海道五十三次いまむかし歩き旅』(河出書房新社 2021年刊)が障害者向けのデジタル書籍(デイジー図書)になっていると、元図書館員の友人が知らせてくれました。デイジーとはDigital Accessible Information Systemの略で、さまざまな障害を持つ人が利用可能なようにデジタル化された書籍のことです。国会図書館の検索画面を早速見てみると、音声データと点字になっています。
拙著がデイジー化とは思いがけないことです。体験を共有し、目の前の情景が読者の脳裏に一枚の絵のように立ち現れる、そんな文章を書きたいと常々思っていますが、それが試されるようで身の引き締まる思いがすると同時に、今後文章を書いていく上で大きな励みになりました。音声や点字に変換するにあたりご尽力くださった方がたにこの場を借りてお礼を申し上げます。
これをきっかけに、障害者のための書籍がかなり進化していることを知りました。昔からあるのは、今回拙著に対しやっていただいたような点字や音声に変換された本ですが、デジタル技術の発達のおかげで、単に音声だけではなく複合的なデジタル化が進んでいて、たとえば読み上げている箇所の文字が大きく照らされるといったこともできるようです。そうしたものはマルチメディアデイジー図書と呼ばれ、パソコンやタブレットなどを使いながら、目と耳で本を楽しむことができます。それには国際的な標準規格があり、世界五十か国以上で採用されています。日本でもその基準に基づきデイジー化が進められているそうです。
利用対象も広まっています。もとは視覚障害者が利用の中心でしたが、加齢で字が見えにくくなった人や病気などで活字による読書が困難な人たちも、デイジー図書を利用する機会が増えています。デジタルなので自宅でダウンロードして楽しむこともできますから、外出が難しい人にとっても便利です。いまはまだデイジー化にそれなりの手間と時間がかかるようですが、そうしたことも今後さらに簡単にできるようになるかもしれません。一冊でも多くの本がデイジー化されることで、書籍におけるバリアフリーが促進されることを願ってやみません。