東海道の祭

箱根神社 湖水祭

東坂を延々と上り、精根尽き果てるころに見えてくるのが芦ノ湖です。芦ノ湖は北西から南東に細長い湖で、旧東海道と交わるのは湖の東、元箱根付近です。その元箱根に古くから山岳信仰の一大霊場として知られる箱根神社があります。

御由緒によると、第五代孝昭天皇の時代、駒ヶ岳をご神体としてお祀りしたことに始まり、奈良時代の天平宝字元年(七五七)万巻上人が箱根大神のご神託により現在地に里宮を建てられました。箱根大神とは、瓊瓊杵尊ににぎのみこと木花開耶姫このはなのさくやびめ彦火火出見尊ひこほほでみのみことの三神の総称です。修験道と習合し、山岳信仰の聖地として栄えてきましたが、平安時代に箱根路が開かれると、険しい山道を通る旅人たちからも信仰を集めました。

 

現在もパワースポットとして人気の神社で、とくに末社の九頭龍神社が縁結びにご利益があるというので、若い女性たちが熱心にお参りすることでも知られます。

九頭龍神社は、その昔芦ノ湖に棲み人々に危害を加えていた九頭の毒龍を万巻上人が鎮め祀ったという謂われの神社で、本宮と新宮があります。新宮は箱根神社境内に、本宮は箱根神社から湖に沿って北に五キロほどのところに鎮座しています。

箱根神社で毎年七月に行われる湖水祭は、現在芦ノ湖の守り神としてお祀りされている九頭龍明神を崇める神事で、御供船に乗った箱根神社の宮司が九頭龍明神に御供物を奉納するというものです。

 

箱根神社境内にある九頭龍神社新宮前で一連の神事が執り行われた後、松明に先導され、御供物が湖畔に運ばれます。

桟橋には、三艘の船が待機。御供物を乗せると、九頭龍神社本宮を目指し、芦ノ湖を北上します。

箱根神社では、月次祭といった小さな神事も合わせると、年間八百もの神事が行われているそうです。湖水祭は芦ノ湖との縁を伝える神事ですが、秋には信仰の原点である駒ヶ岳で神事が行われます。

歩く先に迫り来る、重厚な姿の箱根連山。そこに足を踏み入れ、懐深い山中を黙々と歩き続けた末に現れる芦ノ湖の風景は、現代の旅人にとっても大きな力を与えてくれるものでした。

パワースポットという言い方は安直で好きになれませんが、箱根の風景に底知れぬ力があることは確かです。

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