古社寺風景

安楽寺

以前京都東山の鹿ヶ谷にある霊鑑寺について投稿しましたが、霊鑑寺から百メートルほど北に住蓮山安楽寺というお寺があります。鎌倉時代の建永二年(承元元年 一二〇七)、承元の法難と呼ばれる宗教弾圧事件で法然の弟子である住蓮と安楽という二人の僧が処刑されました。この弾圧では法然も流罪となりますが、流罪地から帰京した法然が処刑された二人の菩提を弔うため、かつての草庵を復興し、住蓮山安楽寺と名付け両上人の追善の寺としたものが、今回取り上げる安楽寺です。

通常は非公開ですが、春の花の時期と秋の紅葉時期、そして夏に行われるかぼちゃ供養のときだけ一般公開されます。一月ほど前にタイミングよく拝観することができましたので、お寺の歴史と共に境内の様子をご覧いただけたらと思います。

末法の世と呼ばれ不安や絶望が渦巻いていた時代、念仏を唱えるだけで誰もが極楽浄土に行くことができ救われると法然が説いた専修念仏の教えは、瞬く間に民衆に受け入れられ、多くの支持を得ました。安楽寺の前身である草庵は、現在お寺のある場所から東に一キロ程の山中に念仏道場として住蓮と安楽によって開かれたもので、鹿ヶ谷草庵と呼ばれました。唐の『往生礼讃』をもとに両上人によって完成された六時礼讃の声明は美しい旋律が特徴で、専修念仏の普及に多大なる貢献をしました。とくに音楽的才能に恵まれていた両上人の勤める声明は聴く者の心を捉え、それがきっかけで仏門に入った人もいたほどだったといいます。

その中に、今出川左大臣の娘で、後鳥羽上皇の女官として仕えていた松虫姫と鈴虫姫という姉妹がいました。二人は容姿端麗で豊かな教養を持ち後鳥羽上皇から寵愛を受けていましたが、他の女官に嫉まれるなど虚飾に満ちた日々に苦悩し出家を希望するようになります。建永元年(一二〇六)後鳥羽上皇が熊野詣でに出かけた留守中に、清水寺で法然の説法を聞いた両姫は、念仏によって救われる以外道はないと意を決し、夜中密かに御所を出て鹿ヶ谷草庵を訪ね、住蓮と安楽に出家を乞います。初め両上人は上皇の許しのない出家であるとして断りますが、二人の強い気持ちに心を動かされ、松虫姫は住蓮より、鈴虫姫は安楽より剃髪を受けそれぞれ法名を授かりました。

出家を願い詠じられた歌は次のものです。

哀れ憂き この世の中にすたり身と 知りつつ捨つる 人ぞつれなき

両姫の出家を知った後鳥羽上皇は激怒し、専修念仏教団に対し弾圧を企てます。これが承元の法難で、住蓮は建永二年に近江国馬淵(現近江八幡)で、安楽は京都の六条河原(現東本願寺近く)でそれぞれ斬首に処されたほか、迫害の矛先は法然や親鸞にも及び、法然は讃岐国に、親鸞は越後国に流罪に処されました。

下は住蓮と安楽の辞世の歌です。

極楽に 生まれむことの うれしさに 身をば佛にまかすなりけり 住蓮

今はただ 云う言の葉もなかりけり 南無阿弥陀仏のみ名のほかには 安楽

 

両上人亡き後鹿ヶ谷草庵は荒廃しますが、初めに書いたように、流罪から戻ってきた法然により復興され、住蓮山安楽寺として追善の寺となりました。現在地に本堂が再建されたのは天文年間(一五三二~五五)と伝わります。

 

青葉に覆われた美しい石段を上がり山門をくぐり、石畳を進むと、左奥には本堂、右には住蓮と安楽の供養塔があります。

こちらは本堂。常行三昧堂として使われていた建物を江戸時代後期に移築したものです。

 

 

先ほどの石畳を直進し、小高くなった斜面を上がっていくと、松虫姫と鈴虫姫の供養塔があります。住蓮と安楽によって出家した両姫は、その後瀬戸内海の生口島にある光明坊で念仏三昧の余生を送り、松虫姫は三十五歳で、鈴虫姫は四十五歳で往生を遂げたと伝わります。

 

本堂から渡り廊下を伝って書院へ。

 

書院前の枯山水庭園は、あいにく花の盛りが過ぎていましたが、その代わり至るところで鮮やかな緑が眼に映じました。

 

 

境内の一角にくさの地蔵菩薩をお祀りする小さなお堂があります。お堂は平成二十七年の再建ですが、くさの地蔵菩薩の歴史は鎌倉時代に遡り、古くから病気平癒にご利益があるとして多くの信仰を集めてきました。正嘉二年(一二五八)五月二日に建立されたことにちなみ、毎月二日にご開帳が行われていますが、現在はコロナの影響で中止しているそうです。

 

七月二十五日には瓢箪型をした鹿ヶ谷カボチャの煮炊きを振る舞い中風まじないをするという、カボチャ供養が行われます。冬至に健康を願ってカボチャをいただくことは知られていますが、夏の土用にというのは初耳です。鹿ヶ谷カボチャはどのようなお味なのでしょうか。

 

 

 

 

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