心に留まった風景

紅葉の栄摂院

以前取り上げた霊鑑寺安楽寺の西に、黒谷さんと呼ばれる金戒光明寺があります。このお寺は比叡山での修行を終えた法然が草庵を結んだ浄土宗最初のお寺で、知恩院と共に高い格式を持つ寺院として発展してきました。幕末には京都守護職会津藩の本陣が置かれたことでも知られ、幕末ファンのお詣りも絶えませんが、金戒光明寺については別の機会に譲り、今回はその塔頭寺院の一つ栄摂院えいしょういんで目にした鮮やかな紅葉の様子をお届けします。

西に京都の町を見下ろす高台に建つ金戒光明寺。その西側には十八ほどの塔頭が建ち並んでいます。多くは通常非公開ですが、門戸は開かれていて中の様子をうかがうことができます。下は金戒光明寺御影堂の西にある永運院。

 

その西隣には西翁院。

 

御影堂の西から真如堂に通じる小径を進むと、向かって左には龍光院や見真院。下の写真は見真院です。

 

今回取り上げる栄摂院は見真院の向かいにあります。栄摂院も通常非公開ですが、紅葉の時期だけ一般に門戸を開いてくださいます。

朱色の門の奥にひときわ目を惹く深紅の紅葉。

 

引き寄せらるように境内に足を踏み入れると、唐門の屋根に覆い被さるように色づく紅葉の見事なこと。

唐門の奥には、斜面を活かした池泉鑑賞式庭園。午後三時過ぎ、天から差し込む西日が紅葉越しに阿弥陀如来像を照らし、まさに西方極楽浄土の世界を見た思いです。

 

この庭園の何よりの魅力は、鮮やかな深紅の大木を一層引き立たせるように、黄色やオレンジ、緑が重なるように配されているところです。すべて同じ深紅で埋めつくされているよりも、このように色の移ろいの中に一つ強烈な深紅があった方がその色が引き立ち印象にも強く残ります。

栄摂院は徳川家康の直臣で後に彦根の井伊家の家老となった木俣守勝が天正十七年(一五八九)に開いたと伝わります。この庭園がいつ頃造られたのかはわかりませんが、見事な紅葉を前にすると情報や知識は必要ないという気持ちになります。

自然が創り出す色は一つとして同じものはありません。栄摂院の紅葉はこれまで何度か見ていますが、今年はとくに鮮やかに感じます。ただただ無心に、自然の力に感じ入ったひとときでした。

 

 

 

 

 

 

関連記事

  1. 心に留まった風景

    円山公園の枝垂れ桜

    東京にいた頃は、桜というと染井吉野で、上野公園や地元の川沿いの染井がし…

  2. 心に留まった風景

    備前焼の里 伊部

    岡山県東部に位置する備前市の伊部《いんべ》は、日本六古窯の一つ備前焼の…

  3. 心に留まった風景

    飛鳥の石造物

    これ、何に見えるでしょうか?飛鳥を巡っていると、このようなどこ…

  4. 心に留まった風景

    小石川後楽園

    久しぶりに東京の話題です。東京ドーム西隣の文京区後楽に、水戸藩…

  5. 心に留まった風景

    楼門の滝

    早いもので今日から師走です。外気に触れると、これまでとは一変、冬の尖っ…

  6. 心に留まった風景

    慶沢園

    大阪の天王寺は、以前当ブログでもご紹介した四天王寺に由来するように、歴…

最近の記事

連載記事

  1. 登録されている記事はございません。

アーカイブ

  1. 祭祀風景

    吉田神社 火炉祭
  2. 心に留まった風景

    一蓮托生
  3. 心に留まった風景

    菜の花と比良山
  4. 寄り道東海道

    蓬莱橋
  5. 手がけた書籍(高橋英夫の本)

    『テオリア 高橋英夫著作集』第五巻 刊行
PAGE TOP